大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島地方裁判所呉支部 昭和36年(わ)90号 判決

主文

被告人両名を各罰金一五万円に処する。

右罰金を不完納の場合は各金一、〇〇〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

理由

犯罪事実

第一、被告人堀井憲雄は、尹良寿、許舞鶴等と共同で大阪市浪速区河原町二丁目千四百五十六番地、ナンバビル内において貿易商株式会社東興を経営しているものであるが、同人等と共謀の上本邦において購買した貨物を北朝鮮に向けて輸出するにあたり、その代金決済方法が標準外決済方法であるため、通商産業大臣の承認を受けなければならないところ、これが承認を受けられないので、他人から外貨交換済証明書等を買い受け、これに基き外国為替公認銀行から輸出申告書に輸出貨物代金が前払いされた旨の内容虚偽の認証を受け、これを利用し、恰も標準決済方法による貨物の輸出である如く仮装して、所轄税関に対し虚偽の輸出申告をなし、当該係員を欺罔し、もつて無承認、無許可輸出をしようと企て、昭和三十五年九月二十九日、京都府舞鶴市、舞鶴税関支署において、同支署係員に対し、写真製版機繊維製品、医薬品等価格合計九百三十四万三千二百二十一円相当の貨物輸出代金の決済方法につき、米国弗で代金の前払がなされた標準決済方法によつたものでないのに、これある如く装い、同年八月中旬頃被告人河元介から買受けていた富士銀行小舟町支店発給の輸出貨物代金前受証明書(D(二)―六〇―〇〇一九、証明金額二万弗)にもとづいて同銀行備後町支店より受けた内容虚偽の認証のある輸出申告書十一通(認証番号RC―D―(八)―六〇―一〇〇〇三乃至一〇〇一三、認証金額合計一万九千九百九十六弗八十四仙)並びに同年九月中旬頃、被告人山田秀行から買受けていた山口銀行大阪支店発給の外貨交換済証明書三通(証明番号AV―(三)―六〇―一一、一二、一三、証明金額合計六千五弗)に基いて同銀行より受けた内容虚偽の認証のある輸出申告書七通(認証番号RC―AV―(三)―六〇―四六、四七、四九乃至五二、六五、認証金額合計五千九百五十六弗五十五仙)及びその附属書類を提出して虚偽の輸出申告をなし、同支署係員をしてその旨誤信させて実質上無効な輸出許可をなさしめ、同年十月十二日舞鶴港に碇泊中の大起丸(船長平川勇)に右貨物を船積のうえ、翌十三日北朝鮮に向け同港を出港し、もつて虚偽申告並びに無承認かつ無許可輸出を遂げ

第二、被告人山田秀行は自己の所持する外国為替公認銀行発給の輸出貨物代金前受証明書又は外貨交換済証明書を譲渡すれば、これ等の証明書を取得した者がこれを使用し、外国為替公認銀行から輸出申告書に米国弗で輸出貨物代金が前払いされた標準決済があつた旨の内容虚偽の認証を受け、これを利用して前記第一冒頭記載の方法により、所轄税関係員に対し虚偽の輸出申告をなし、無承認無許可輸出を遂げるに至ることの情を知りながら尹良寿からいわゆるチエツクドルの枠を譲り受けたい旨依頼を受け、一弗当り四十円余の代金で譲渡することを了承し、同年九月中旬頃、前記東興事務所において、宋金炎から譲り受けていた外貨交換済証明書(証明番号(AV―(三)―六〇―一一、一二、一三、証明金額合計六千五弗)を代金約二十四万円余で被告人堀井憲雄等に売却譲渡し、同被告人等の前記第一の犯行を容易ならしめ

て各幇助し

たものである。

第三、被告人山田秀行は昭和三三年一二月上旬頃渡辺弘光から前同様の依頼を受けこれを了承しその頃河元介から山口銀行東京支店発給の外貨買取済証明書二通(証明番号AV―(二)―八―一一AV(二)―八―一二)を一ドル当り四〇円位で買受けこれを利用し同月九日山口銀行本店において昭和物産株式会社を輸出名義人とする輸出申告書二通にそれぞれ虚偽の認証(認証番号RC―AV(一)―八―一七七及びRC―AV(一)―八―一七八)を受けこれをその附属書類と共にその頃渡辺弘光に一ドル当り約五〇円で売却譲渡しもつて同人等の昭和三三年一一月一一日長崎県上県郡厳原町久田道所在の厳原税関支署において同支署係員に対しオリジナル・カオール等価格合計一、七二四、五四四円相当の貨物輸出代金の決済方法につき標準決済によつたものでなくまた真実昭和物産株式会社が輸出申告をするのでもないのに、これある如く装いその頃情を知らない税関貨物取扱人である対馬通運株式会社係員を介してこれを提出し虚偽の輸出申告をなし、同支署係員をしてその旨誤信させ実質上無効な輸出許可をなさしめ翌一二日厳原港に碇泊中の帆船昭盛丸(船長角本幸吉)に右貨物を船積みの上韓国に向け同港を出港しもつて虚偽申告並びに無承認且無許の輸出を遂げた犯行を容易ならしめて

これを幇助し

第四、被告人山田秀行は

韓国人バイヤー李乗丁が本邦で仕入れた自転車ミシン頭部等を韓国に向け輸出するに当り右李と共謀の上右輸出が標準外決済方法によるもので通産大臣の承認を受けなければならないのに、被告人において他から入手した金額六、〇〇〇ドル表示の輸出貨物代金前受証明書を利用し標準決済方法によるものである如く装つて輸出しようと企て昭和三六年二月一日頃山口銀行大阪支店において右前受証明書により本件輸出が標準決済方法による輸出であると詐つた証明をして同銀行より内容虚偽の認証を受け同月三日神戸税関に対し右内容虚偽の輸出申告書(申告番号その他は別表の通り)を提出して税関係員を偽罔し通税手続を了して同月八日神戸港に碇泊中の第一三春光号に別表の通り貨物を船積みの上韓国に向け出港しもつて無承認輸出を遂げた

ものである。

証拠の標目(省略)

適用法条

虚偽申告の点

関税法第一一三条の二第六七条

無承認輸出の点

外国為替及外国貿易管理法第四八条第七〇条第二一号輸出貿易管理令第一条

無許可輸出の点

関税法第一一一条第一項第六七条

各虚偽申告幇助の点

関税法第一一三条の二第六七条刑法第六二条一項

各無承認輸出幇助の点

外国為替及外国貿易管理法第四八条第七〇条第二一号輸出貿易管理令第一条刑法第六二条第一項

各無許可輸出幇助の点

関税法第一一一条第一項第六七条刑法六二条第一項

無承認輸出と無許可輸出

各無承認輸出幇助と各無許可輸出幇助。

一所為数法  刑法第五四条第一項前段第一〇条

虚偽申告と無承認、無許可輸出

虚偽申告幇助と無承認、無許可輸出幇助

索連犯  刑法第五四条第一項後段第一〇条

各罰金刑選択

従犯減軽  刑法第六三条

併合罪加重  刑法第四五条第四八条第二項

罰金不完納の場合の換刑処分  刑法第一八条

訴訟費用の免除  刑事訴訟法第一八一条第一項但書

弁護人の主張に対する判断

本件虚偽申告並に無承認かつ無許可輸出は真正な外貨交換済証明書に適法な認承正規な申告を済ませて輸出したもので無許可輸出とはならない。仮りに違反となつたとしても被告人に犯意がない。から無罪である。本犯が無罪であるから該証明書の各譲渡も幇助とはならない。と主張するが、貨物を外国に向け輸出するには外貨交換済証明書或は輸出代金前受証明書の必要なことは被告人これを熟知し、実際に貨物を輸出する者が、その貨物の前払代金として支払われた外貨を銀行に売却して得た円貨で輸出貨物を購入せず、所謂空枠と称される、当該輸出貨物とは無関係な、前記証明書を他から買集めその証明書に照応する金額の貨物を他から入手して輸出貨物に廻すものであることは被告人等の承知していたところである。従つて輸出貨物代金は前払いされておらず、形式上前払いされたかの如き証明書があるに過ぎない、外貨前払い方式による輸出にはこの前払いということは絶対必要条件であるから右の如き形式的にのみ証明書を整えて輸出手続をとることは、無承認輸出虚偽申告、無許可輸出となることは論をまたない。従つてこれを予期して該証明書を他人に譲渡することは、その犯行の幇助となることは当然である。巷間盛んに行はれて居り犯意がないとの点は単なる法律の不知に過ぎない、弁護人の主張はいづれも採用することはできない。

別紙 省略

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例